SDGsの解決に向けて~近江商人の“三方よし”の概念と未来の幸福~

 

近江商人とともに歩まれてきた“三方よし”の概念。

時代を超えた今でも大切に培われ、沢山の企業や様々な分野で起用されています。

まさに三方よしは、世の中の根幹を成す考え方と言ってもよいかもしれません。


世界中の人々が真剣に取り組むべく“SDGs”

SDGsは様々な課題が絡み合い、簡単に解決できるものではないかもしれません。

しかし一人一人の意識と行動が、目標達成とともに未来の幸福へと繋がるのではないでしょうか。

 


「三方よし」とは?~近江商人が生み出した考え~

近江商人とは?

近江(現:滋賀県)を治めた織田信長による“楽市楽座”をはじめとした商業制度。

それらが大きなきっかけとなり、江戸から明治頃まで日本各地で大活躍したのが近江商人です。

頭に菅笠、縞模様の羽織合羽、肩には千両天秤。

彼らは地元の特産物を中心に、江戸・大坂・京都の三都をはじめ、全国各地へ行商しながら商品流通を行なったと言います。

天秤棒一本から豪商と呼ばれるまでの財を築き上げた近江商人。

実はあの有名な「伊藤忠商事」・「丸紅」の前身を立ち上げた“伊藤忠兵衛”は、何を隠そう近江商人だったのです。

“足で稼ぐ”の教えの下、麻・布の持ち下りを11歳で始め、商売の在り方を学んでいったと言います。

“持ち下り”とは、関西から全国各地へ行商すること。

その一方で、地方の産物を関西へ運び売ることを“登せ荷”と呼びます。

 

「三方よし」とは?~企業理念に掲げられる考え方~

近江商人の行商活動モットーとして知られる“三方よし”。

経営哲学である三方よしの精神は、企業理念として掲げる会社も多く、商売の在り方の根底と考えられています。

 

“売り手よし・買い手よし・世間よし”

 

三方とは、売り手、買い手、そして世間の3つの立場のこと。

この三方が満足してはじめて、幸福感を味わえる。

“売り手よし・買い手よし”のいわゆる“win-win”の関係では、三方よしの最後に掲げる、世間よしには貢献できません。

買い手が喜ぶ物を売って、そこで得た利益を世の中のために使う。

これが、近江商人の活動理念だったのです。

顧客の立場に立った商いは、売り手の信用を構築し、買い手には満足と幸せが生まれる。

そして商売から得られた利益を世の中のために使う。

現に近江商人らは学校や橋を建てるなど、利益を世の中へ貢献し続けました。

売り手のみならず買い手にも、そして世の中にも、全てに良いメリットをもたらすことこそが、三方よしの醍醐味であると言えますね。

つまり、自分も相手も、そして社会も幸せになることの大切さへの気づきとも考えられます。

三方よしの精神は、常に正三角形のようにバランスを保ってこそ生かされるのではないでしょうか。

 


教育や日常生活にみる「三方よし」

元々、“商い”から生まれたこの精神ですが、学びの場おいてもこの考え方を取り入れ、教育方針に掲げている学校もたくさんあるようです。

例えばある中学校では、『自分=自己実現や自尊感情』、『相手=思いやり』『世間=社会』と捉え、“三方よし”を実行できる教育を目指しています。

自分を大切にしながら歩んでいく。しかし関わる相手への思いやりを忘れない。

そして将来、自分のできることで社会に貢献していく人間を目指す。

近江商人から生まれた理念、“三方よし”は、将来を担う子どもたちへの素晴らしいメッセージではないでしょうか。

合唱を例に挙げ、三方よしに通ずるような考え方を示唆している学校もあります。

合唱は一人でするものではなく、自分だけ上手に歌えてもダメ。相手(周り)の声も聴いて合わせる。

それができてはじめて、合唱は成り立つというお話です。

日常生活においても、私たちはどこかでメリット・デメリットだけにフォーカスした言動をしがちではないでしょうか。しかしこれでは自分も相手も周りでも幸福感は生まれません。

売り手を“自分”、買い手を“相手”、世間を“皆”に置き換えることで、三方よしは私たちの日常生活を豊かなものにします。

例えば、道路での譲り合いは事故防止に繋がりますし、困った相手をできる範囲で手を差し延べる。

これはお互いの喜びや信頼に繋がり、そういった積み重ねが優しい社会に連鎖されていくと思うのです。

 


SDGsにみる「三方よし」

2015年9月、国連サミットで採択された2030年までに世界で達成しなければならないSDGs(Sustainable Development Goals)。

17の目標と169のターゲットからなるSDGsは“持続可能な開発目標”という意味で、国連に加盟している193か国全ての合意によって決定されました。

最近ではこのSDGsという言葉を目にしない日はないといっても過言でありません。

企業はもちろん学校や街においても、「わたしたちにできること」としてこの17の目標達成に真摯に向き合っているように感じます。

 コーヒーショップでのプラスチック製ストローの廃止を例にとっても、目標14“海の豊かさを守る”だけでなく、目標12“つくる責任・つかう責任”に関わる資源の無駄使いの問題にも繋がります。

17の目標と言っても各々分離した問題ではなく、全てはどこかで繋がっており、何一つ誰一つ取り残さない同時成立が必要だと言います。

そういった点においても、共存共栄の精神である“三方よし”は、まさにSDGs達成のために必要な概念ではないでしょうか。

 


世界にみる「三方よし」

世界の人口は今約78億人と言われています。

世界はとても大きく、自分とは無関係に思えるかもしれません。

しかし、例えばここ数年悩まされている“新型コロナウィルス感染症”の問題は、社会生活に大きく影響し、世界を身近に感じさせられる出来事でした。

先進国ではワクチンが普及していても、途上国の人々にはなかなか行き渡らない。

自分も相手もワクチンを打てれば、みんなが元気になる。

 

また、先進国は途上国を積極的に援助する精神と行動が必要です。

差別や偏見をなくすこと、環境衛生問題、教育の場を提供するetc.

これは先に挙げたSDGsへの貢献に繋がることに値するのではないでしょうか。

 


いかがでしたか?

“皆が幸せになること”つまり今注目されている“SDGs” が達成されること。

自分だけの満足や相手だけの優越では、互いの関係には不調和しか生まれず、結果、豊かな生活や社会は形成されません。

私たちに必要なのは、あの近江商人のモットーであった“三方よし”の精神だと感じます。

売り手(自分)よし・買い手(相手)よし・世間(世界・みんな)よし。

一人一人が幸せになる原点、それが三方よしの素晴らしき概念ではないでしょうか。


参考資料

三方よしを世界に広める会
http://sanpoyoshi.net/

近江商人と三方よし -伊藤忠商事株式会社-
https://www.itochu.co.jp/ja/about/history/oumi.html

古川鉄治郎という「近江商人」 -丸紅株式会社-
https://www.marubeni.com/jp/company/history/toyosato/

サステナブルとSDGsの関係性とは?日本の「三方よし」との類似点も解説 -ラストマイルライフスタイル-
https://lastmile-lifestyle.okippa.life/archives/177

三方よし -東近江市立朝桜中学校-
http://www2.higashiomi.ed.jp/chouchu/index.php?page_id=20

教育方針(三方よし) -常葉大学教育学部附属橘小学校-
https://www.tokoha.ac.jp/fuzoku/introduction/educational